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【第11章】南アルプスから富士山、田子の浦へ㊦3~大混雑と渋滞の山頂
山行データ2006年8月4日~5日、53歳。単独。冨士浅間神社から旧道を経て五合目。山頂を踏みできれば、一気に太平洋の田子ノ浦の潮まで踏破する。 五合目とゴミ回収車 馬返しからの旧道に沿 ...
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山行データ
ふた昔と弾丸登山
十年をひと昔というなら、2024年の今年から、わたしが富士山頂を越えたのはふた昔ほど過去のことになる。
20年後の富士山への最大の関心は、山梨県側からの入山規制。
夜通し這い登って日の出を拝んできました!!
フラフラになりながら、危険と背中合わせの「弾丸登山」の歯止めにもなると期待された入山規制である。
(弾丸下山?須走口へと駆け下る=昭和2年7月31日のスタンプのある絵はがき)
その弾丸登山が92・6%減ったと、読売新聞(8月20日)の記事があった。
山梨側(富士吉田)の5合目で7月1日から午後4時~午前3時まで閉鎖。
登山者数は一日4000人にし、一人あたり2000円を通行料として徴収する。
8月18日までのまとめだと、6合目を通った登山者は9万456人(前年同月比13・8%)、弾丸登山の時間帯となる午後9時~11時は166人(同92・6%減)だった。
山小屋関係者による登山者数の減少、救護施設の医師の検診者数の減少などへの見解を紹介しつつ、確かな変化を伝えている。
中央アルプス南部の静けさよ
富士山頂へは静岡県側からの登山道もあり、シーズンを通じれば膨大な登山者数になるが、弾丸登山を抑えれば賢明な自然活用にもつながろう。
猫も杓子も富士山詣は言いすぎかも知れないが、地味でも味わいも印象も深い山々が各地にある。
わたしがこの夏(2024年7月)に訪ねた中央アルプス南部の山々が、例えばそれ。
新田次郎が「聖職の碑」で描いた駒ヶ岳遭難(大正2年8月)の登山ルート、遭難碑を再訪した(2021年)を機会に、空木岳(2864m)を初めて訪ねた流れだ。
空木岳の南には越百山(2614m)、さらに南には全国区には無縁な奥念丈岳(2303m)、念丈岳(2291m)へと伸びる。
縦走欲がいや増しに増す山域なのだ。
2023年の失敗を経て初日は空木岳から入り、水場のない未知の尾根でテント2泊を覚悟し、5リットルの水を空木平で補給し、肩がきしむ重荷にあえぐ4日間の縦走。
南越百山(2569m)~奥念丈岳のうち、登山道が不明と聞く1キロ余のブッシュ帯が難関。
まさに、笹や針葉樹、シャクナゲなどの低木の密林が待ち受けていた。
(目印を頼りにブッシュを泳ぐ)
幹にヒラヒラする古びたピンク色のテープがなければ、難儀は数倍したことだろう。
尾根筋とはいえ、ルートを見失い、倒木や湿った斜面でしばしば転倒する羽目になる。
笹に隠れた急坂の倒木につまずき、前方一回転、頸椎・リュックを斜面に打ち付けて着地という前代未聞の転倒だというのに、手足、首をひねっても普通に動いてくれるのは幸運だとしか思えず、やがてしっかりとした登山路に出て振り返ると、分厚く密集する樹林の手強さが迫ってきた。
(登山道のある奥念丈岳の頂きでホッとする)
剣ヶ峯は記念写真の順番待ち
越百山から本高森山(1889m)を経由して下山するまで(一泊)、だれ一人として出会うことはなかった。
途中にあった素晴らしい湧き水はことさらうれしかった。
空木平を出てから初の水のきらめきは、極上のもてなしである。
キリリと冷たい水をたらふく飲み、顔や首などを清めた。
この縦走から富士山の外輪で仮眠した20年前に戻ると、何という違いなのだろう。
語るべき適切な表現が思い浮かばない。
・・・仮眠は1時間足らずだったが、やはり周囲に登山者がひっきりなし。
わたしはトイレ待ちの列に並び、200円を箱に投じてお腹を整えた。
登山者が多いだけに、大小の処理も、富士山が抱える問題の一つと指摘されて長い。
200円くらいの負担は、富士の神サマへのちっぽけな賽銭だ。
時計を反対回りに火口の縁を辿る。
目に入る巨大な噴火口からしみ出す静けさが、じわりと恐ろしい。
地図にもある水場(?)である金明水らしいささやかな構えも左手に見やる。
(金明水=前での絵はがきとそろいの一枚)
古い時代の登拝者にとって、月面のような無機質な火口で水が得られれば、どれだけ力づけられたことだろう。
わたしの先ほどの湧き水との出会いのように。
ほぼ半分ほど回り込むと、最高地点剣ヶ峯。
わたしも、順番待ちし、そこで一枚。
転付峠から見やった遙か遠くの頂きに、ようやくたどり着いたのだと思う。
(転付峠から遠望した富士山)
安定した天候だが、転付峠のある南アルプス方面や、この山肌が滑り込んでいく駿河湾方面はぼやけている。
ブルだって登るのだ
おもちゃのようなブルドーザーに山頂神社近くの斜面に見えるのに驚く。
小さく見えるが、実に建設現場で活躍する本物だ。
富士山頂へは、確かに重機が通るルートもある。
物資の輸送用?
ブルが山頂まで到達する3000m級の峰はほかにあるまい。
富士山にはブルだって登ってしまう。
(ここが日本の最高点)
下るにつれて静岡側からの登山者が途切れず、迷彩服の自衛隊員とおぼしき人もいて、体力訓練の下見だという。
富士山麓に自衛隊の演習場があるからだろう。
おっと!走り下るのは、外国人だ。
溶岩が黒く固まった斜面からは、火山ガスが抜けた丸い穴がいくつものぞいていて、またしても火山としての本性を見せつけている。
左手にスプーンでえぐったようにくぼんでいる巨大な裸地は、江戸時代の噴火跡(1707年)の宝永火口。
火口を背にするとようやく松の仲間らしい灌木が見え始め、樹種が増え、背丈も増して行く。
樹木が繁る斜面を一人下っていくと、アスファスト舗装道路に出た。
五合目、駐車場も広々としている。
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【第11章】南アルプスから富士山、田子の浦へ㊦5~潮騒に素足を洗う
山行データ2006年9月15日~16日、53歳。単独。富士山静岡側五合目から下り、駿河湾・田子の浦で登山靴を脱ぐ。 田子の浦と海のにおい 高さ3メートルかと見えるコンクリートの護岸が、左 ...
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