登山余話

【登山余話14】南アルプス小太郎山、広河内岳~脇役の夏㊤~

 

山行データ

2021年8月26日―9月1日、68歳。単独テント。

名古屋から山梨県奈良田で駐車。広河原から入山。

北岳、間ノ岳、農鳥岳が主稜線。北岳の北にある小太郎山、農鳥岳の南にある広河内岳へ。大門沢から奈良田へ下山。

 

25年ぶりに白峰三山縦走

北岳、仙丈ヶ岳、甲斐駒ヶ岳、地蔵岳と並べれば、南アルプス北部を席巻するスターです。

 

とりわけスーパー林道に登山バスが運行され、これらの山岳への入山は便利です。

初めての南アルプス白峰三山(山小屋利用・前章)ですが、25年前のそのとき気がかりな一座がありました。

 

小太郎山

 

北岳の尾根を北の端にあります。

名前も曰くありげで興味をそそられます。

 

北岳といえば富士山に次ぐ国内2位の高峰

そこから近いのに、登山者の感心は薄そうです。

 

コロナウィルスの感染拡大2年目の2021年の夏山。


(自家用車は奈良田まで。シャトルバスに乗り換え)

昨夏歩いた北アルプス燕岳槍ヶ岳の表銀座などはこの夏、テント泊が1人・2000円に跳ね上がりましたが北岳周辺は1000円です。

差額は北アルプス南アルプスの人気の数値化のようでもあり、南アルプスを応援したい気持ちが勝ります。

北岳から小太郎山農鳥岳からの下山路から少し足を伸ばして上河内岳の山頂を踏みしめてみようというのです。

 

北岳山頂そばでもシカ対策

ヘッドライトが照らす闇の中に中型犬のような獣が不意に2頭浮かび、慌てて住宅そばの草むらに消えます。

野性のシカ

 

くねる山際の道をさらに少し進むと、左手にさっきより二回りはおおきなシカが立派な角をたててライトを見返します。

目がビー玉みたいです。オス。

道路そばの草を食べているところらしく、口がもぐもぐと動いています。

 

次第に早川の両岸が狭く高くなり、奈良田へ向かう右岸に刻まれた山道です。

人家もまれ、対向車も後続車もありません。

 

シカは夜行性などと訳知り顔ではすませられません。

山からシカサルがどんどん人里におりてきて、農作物被害が深刻な事態が続いています。

 

まさにそれを実感しながら、夜が明けて奈良田からシャトルバスに乗り換え広河原から北岳へ吊り橋をわたります。

バスに乗る前の体温測定など、至る所にコロナ対策があります。


(登山道沿いに沢が幾筋も。登りは水の補給に恵まれる)

太いブナの倒木の沈黙や、本流に落ちていく沢水の疾走に感心しながら森林を抜け、北岳の尾根へ急登にかかります。

 

25年前の薄い記憶が鮮明になり、眼前の異景に息をのみます。

高山植物があふれていた斜面はネットで囲まれているのです。

 

一ヶ所ではなく、登山道沿いに三ヶ所です。

北岳の直下です。

 

環境省の説明板によると、高山植物を保護するための施設です。


(高山植物を保護するためのフェンス。左奥は北岳山頂部)

 

二年ぶりの北岳の夏山、あふれるテント

好天の土曜日。

覚悟はしていましたが、北岳のテント場は満杯です。

 

コロナへの警戒から、昨年は北岳肩ノ小屋が休業したそうで、この夏は二年ぶりの開設。

小屋泊まり、テント派とも、この週末を逃すまいというのでしょう。

 

北岳山頂の反対側にある北岳山荘(南アルプス市営)は、山荘、テント場ともコロナ対策のために閉鎖です。


(北岳の山頂を仰ぎながらテン場を目指す)

肩ノ小屋(初日)、山荘(二日目、小太郎山登山後移動)というわたしの計画も変更。

 

肩ノ小屋のテント場で二泊します。

 

わたしを最後の追い抜いていった男女2人が、小屋直下のゾーンにあるテン場で、見たところ最後の場所にテントを設営しています。

 

張り綱の行儀がよくないなぁ、あるいは場所を欲張りすぎるなぁというテントもあります。

 

わたしはテントの密集を縫って斜めに下り、ちいさく盛り上がる地形の向こう側に、やっと狭い適地を見つけます。


(密集するテン場。奥は早川尾根)

盲点のように人目につかない場所です。

このゾーンに残った最後の空き地でしょう。

 

尾根から10メートルくらいはおりていて、ハイマツの斜面は西風をしっかり防いでくれます。

別のゾーンは尾根筋なのです、西からの強い風が悩ましそうです。

 

尾根なら富士山仙丈ヶ岳などの展望を振り分けて楽しめますが、強風は侮れません。

昨年夏に北アルプス蝶ヶ岳のテント場では、フレームが極限までたわんでいるテントを目にしたものです。

 

やや斜めが気になりますが、疲れていてさらに適地を見つける気力がありません。

 

わたしの鈍牛の歩みと道草は、抜かれることはあっても、先んじることなどない登りでしたから。

正面に富士山が展望できるようにテントを張ります。

 

絢爛の夜、閑散の朝

夕暮れていく富士山を少し右に、夜叉神峠の向こうに甲府盆地の明かり。

ぐんぐんと下がっていく気温を半袖の腕に感じます。

 

体はテントの中、コッヘルはテントの外。

 

キムチをベースにした牛すじ鍋が、両足の間で煮立っています。

久しぶりに山の定番復活です。

火を落としてコッヘルを敷板に置いて安定させます。

 

缶ビールのプルを外します。

小屋で水は売っていましたが、往復20分以上かけて汲んだ水はしっかりビールを冷やしてくれています。

 


(北岳の水場はテン場から急斜面を下る。美味)

テント受付のときに、年齢を書く蘭がありました。

数字を記入しながら、こんなしんどいテント歩きがあと何年できるだろうと思わされました。

ビールをぐいと、かなり。

 

うん。

 

熱く、キムチの味がしみた牛すじを奥歯で。赤身の淡泊さと脂肪のジュッとした甘み。

こちらもただ、そのまま。

 

ビールで冷えた口の中で発火するようです。


(夏雲より高い富士山を遠望し、標高3000mテントの食事を堪能する)

この先何年だって、こういうひとときをもちたいと願います。

暗がりが足早におりてきて、すぐに市街の夜景が浮き上がってくることでしょう。

 

(続く)

 

 

 

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ゴン

1952年生まれ。 18歳で高校を卒業後、他県生活を30年余。 北海道、北陸、東京など、転勤に伴い転々とする。 退職後は2013年から自宅で小さな英語塾を開設。夫婦で小中高生や社会人と接する一方、夏秋になると北アルプス、南アルプスの山歩きをしている。 中学、大学でプレーした卓球を退職数年前に約35年ぶりに再開。地元高校のコーチは5年目(2020年4月現在)

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