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白山の1~残雪の・笈ケ岳に行く(下)

 

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白山の1~残雪の・笈ケ岳に行く(中)

    山行データ笈ケ岳(1,841m)は白山国立公園の北端を占める孤高の峰。 金沢市内のアパート出発、白山スーパー林道沿いの山毛欅山から入山。残雪の山中テント泊。 二日目に冬瓜山 ...

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山行データ

笈ケ岳(1841m)は白山国立公園の北端を占める孤高の峰。
金沢市内のアパート出発、白山スーパー林道沿いの山毛欅(ぶなお)山から入山。残雪の山中テント泊。

二日目に冬瓜(かむり)山を経て笈ケ岳山頂。同ルートで下山。夏道がない。数年の準備を経て1994年4月16、17日。42歳。単独。

 

 

冬瓜平横断を深雪で断念

キツツキが嘴で木の幹を激しく打ち付ける打音が、ダダダダダとドリルのように聞こえる夕暮れ時。

ビールを飲んだり笈ケ岳を眺めたりしながら日没を迎え、明日への軽い高揚を意識します。

冬山用の寝袋は十分に温かく、断熱マットを下に敷いて雪面から伝わる冷たさを防ぎテントの中は快適です。

テント入口外に置いた気温計を点検すると零度。しかし寒さに震えることはまったくない夜です。

冬瓜山から
(細く狭い冬瓜山の山頂部)

明ければ早朝の暗い北斜面にたたずむブナ林は、静寂の底をさらに深くするような原始の息遣いを濃厚に感じます。冬瓜平。

急峻な冬瓜山越えを避け、冬瓜平のブナ林を突っ切ろうとしたのですが、すぐに腰まで潜るラッセルを強いられて諦め、尾根道に戻ります。

狭く灌木が繁る尾根にはときにはロープが枝に結わえてあり、確かにこのルートを歩く人たちの痕跡に励まされます。

 

 

冬瓜山の山頂通過は超危険

天気はどんよりとして陰気です。

灌木を手当たり次第につかみ、力任せに高度を稼ぐうち、冬瓜山の頂上部に出ました。

雪に覆われて狭く尖っています。幅1m足らずの雪の弧ができています。

昨日出会った二人も、ここを往復したに違いない。そこしか通過できそうな場所はありません。

滑落は最悪です。ピッケルをしっかり握り、足元を確かめつつ反対側に移動。そこから斜めに雪の急斜面を横切ります。

雪崩の前触れのような小さな亀裂が不気味です。

歩く
(冬瓜山の危険ケ所を越え、雪原から笈ケ岳を見つつ歩く)

遠目に気がかりにしていた三角の黒いものは、この尾根と笈ケ岳の派生する尾根がぶつかるT字路にあたる大岩です。

接近すると、のしかかってくるほどの巨岩。
どうかわそうと立ち止まり雪面を見やると、動物の足跡が左手へ迂回しています。カモシカのものでしょう、そのトレースを借ります。

カモシカが通過できるのなら、人だって大丈夫だろう。

胸をこする急斜面をどうやら左手へと避けて尾根に出ます。とたんに、日本海からの風が強く吹き付けてきます。

冬山の気配を濃厚に残す殺風景な雪原や尾根の起伏を何度か乗り越え、9時20分、笈ケ岳の山頂。

ササ原に小さく痩せたダケカンバが立っています。そして10人ばかりが私を迎えてくれます。

山頂
(笈ケ岳の山頂には細いダケカンバ、雪は少なくササ原がのぞく)

 

笈ケ岳山頂の思わぬ面会

「あんたが来るのをまっとったんやぜ」

「いやぁ、まさか笈ケ岳のてっぺんで人と会えるなんて。遠くに青色のウエアを見たときは驚きました。ピッケルを振って、大声で呼びかけたんですよ」

「こっちもびっくらよ。あんた一人だしな。わたしらは、五箇山へくだるっちゃ」

「気をつけて下りましょう、お互いに」

別のルートから入り、富山県五箇山側へ下る人たちでした。

50歳代から60歳代の人まで。憧れの笈ケ岳へガイドツアーなのだという。

冬瓜山を越えたあたりから、笈ケ岳から南へ走る尾根の上を、青、赤などの色彩が北へ移動しているのを見つけていました。

小さな点が並ぶくらいの大きさでしたが、登山者以外に考えられません。

うまくすれば笈ケ岳の山頂で会えるだろうと見積もっていたのです。

かれらも、尾根から左手の雪面からこちらへ向かってくる登山者(私)をみとめていたのです。

大笠山
(偶然山頂で出会った登山者は大笠山を目指して去っていった)

大笠山へ転じるグループを間もなく見送ると、途端に寂寥感に見舞われます。

強い西風は容赦なく私を打ち付け、防寒服がバタバタと音を立てて体に張り付きます。一人で歩いているのだなと強く意識します。

行者岩(あの巨岩を勝手に命名)の裾を斜めに下り、危険な冬瓜山の亀裂斜面、山頂もやり過ごしましたが、いつまでたってもテントが見えません。

 

下山の尾根を間違える

尾根の形が違うなぁとふと振り返ると、黄色いテントは一つ北の尾根にちょこんとみえるではありませんか。

分岐に印のテープでもつけておくべきでした。

しかし、間違ったなりに発見がありました。

一つはブナの幹にくっきりとクマの爪痕を見たこと。

開花時期のブナの花芽か、秋のブナの実を食べるために、そのツメをギシッと幹に食い込ませ、登ったのでしょう。

もう一つは、雪洞です。

雪洞
(雪洞がくりぬかれていた。まだ最近のもののようだ)

尾根の東側斜面に四角くくりぬいたようにしてありました。

この尾根は笈ケ岳への残雪期ルートの一つなのでしょう。テントを担がない冬山仕様の登り方も魅力的です。まだ新しい。最近の登山に違いありません。

テントに戻る時間のロスもあり、山毛欅尾山で落ち合う予定の日帰りの知人が寒い中をずっと待っている筈がありません。

山頂の雪面には靴跡が乱れています。

多くの登山者をこの日、山毛欅山は迎えたのです。

夕暮れていく遠くの白山を山毛欅山山頂からしばらく見納めます。まろやかに堂々と白い。

刻々と暗くなる中を下りきります。クルマに戻った時は真っ暗。

麓の銭湯に立ち寄り、深々と湯船に身をひたしました。

疲れきり靴擦れのひどいかかとの痛みに顔をしかめながらも、身も心も丸ごと一新されているのがはっきりとわかります。

いい二日間を手に入れた気分です。

笈ケ岳登山から20年以上がたっていますが、もう一度行ってみたい山です。チャレンジしたい思いがあります。

(完)

 

薬師山頂
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ゴン

1952年生まれ。 18歳で高校を卒業後、他県生活を30年余。 北海道、北陸、東京など、転勤に伴い転々とする。 退職後は2013年から自宅で小さな英語塾を開設。夫婦で小中高生や社会人と接する一方、夏秋になると北アルプス、南アルプスの山歩きをしている。 中学、大学でプレーした卓球を退職数年前に約35年ぶりに再開。地元高校のコーチは5年目(2020年4月現在)

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