-
【第10章】聖岳から赤石岳③~聖岳に向かうひとり人~
山行データ1999年7月31日―8月3日、46歳。単独。静岡駅からバス便。 畑薙ダム(終点)から歩く。茶臼岳から上河内岳を経て聖岳(3,013m)、兎岳から百間平、赤石岳(3,120m)を踏んで椹島へ ...
続きを見る
山行データ
畑薙ダム(終点)から歩く。茶臼岳から上河内岳を経て聖岳(3,013m)、兎岳から百間平、赤石岳(3,120m)を踏んで椹島へ下山。
聖岳は南アルプスで最後に踏む3,000m峰。
赤石岳の沢筋から風塊
さほど遠くはない赤石岳の谷底で、何かがヒッとなくような微音が生まれたのを聞きつけます。
針の先ほどの風の塊になったようです。
また来るぞ・・・わたしはテントのなかで目を覚ましていて、音を大きくしながら迫ってくる風塊に身構えます。
ドゥ・ドゥ・ドゥ・・・谷筋に這う植物をたたきつけながら急接近してくると、風塊はフライをばたつかせながら吹き去ります。
ペグで四隅を固定していないので、ふんわりと持ち上げられる浮揚感が残ります。
わたしは風塊があたる谷側に横たわり、自分自身をおもりにして、テントがさらわれないようにします。
さほどの猛威ではないにしても、一人で持ちこたえるのは緊張があります。
通り過ぎてホッとするまもなく、次の風塊が押し上げてくるのです。
何回も何回も。
谷筋を駆け上がるのにつれて、威力をぐんぐんと増して、この尾根を越していくようです。
(前日は聖岳から険しい下りと登りののち、テントを張った)
突風のルートがある
一様に吹くようにも見える風ですが、川に急流や瀞がめまぐるしいように、確かに一気呵成に通過する風の道があるものです。
台風下の秋の日高山脈・七ッ沼ではテントの支柱が折れたものです。
梅雨の雨が降る北アルプス五色ヶ原近くの尾根では、一歩を踏み出すのに躊躇する場所がありました。
わたしがテントを張った場所こそが、強風の川の通過地点のようです。
ゴキゲンなテント場の本性?暴露です。
テントをさらわれることはないと読んではいますが、気持ちのよくないまま朝を迎えます。
フードから外を見やると、濃い霧が立ちこめています。
どうする・・・
ひとまず出発の準備を整えてテントの外に出ると、霧の赤石岳の方面から若者6人のパーティがやってくるではありませんか。
ガスは見る間にきれいに消えてしまい、数時間前までのテントのなかで抱いた胸騒ぎは霧散してしまします。
(中盛丸山の山頂から赤石岳を背にする)
百間洞のテント場から?
聞けば、大学生。
5人は仙丈ヶ岳~光岳~畑薙第一ダムへと縦走中。
別の仲間の一人は別ルートで、聖平で合流するという。
若い活力に満ちた靴音はザッザッと砂利に跳ね返り、大きなリュックの背後にある赤石岳の大観を振り返ることもせずに、ひたすら前進です。
みなぎるエネルギーを感じとり、わたしは逆コースです。
隠し砦のような山奥の小屋
夕べ強風で目を覚ましたのが、まだ午後9時のこと。
その時、空は満天の星。
それから朝の2時15分には熱い紅茶を飲み、軽く菓子を口にし、その後はうつらうつら。
6時45分には歩き出し。
途中でスケッチをしながら、中盛丸山(2807m)では高齢単独男性と行き違い、水場を聞かれて昨日の場所を教えると感激していました。
(小兎岳あたりから。赤石岳方面に秀峰を数える)
出がけに身につけた防寒コートもリュックにしまい込みます。
次に別の若い単独登山者は「御嶽山はどれですか?」と聞くので、分かる範囲で北方の展望を話す。
2人とも縦走の荷造りには見えないので、昨夜は百間洞の山小屋泊まりだと思います。
健脚なら聖岳を経て椹島(宿泊、送迎バス便あり)まで下ることでしょう。
(百間平と赤石岳を展望しながら樹林を歩く)
30分をこの山頂で過ごし、おいしい景色を360度に広げておなかをつくりました。
百間洞の山小屋の前を通り過ぎると、隠し砦のような、山の奥深いたたずまいの木造作りです。
昨夜の利用者がごく少なかったことでしょう。
この小屋まで来るには、赤石岳経由、あるいは聖岳経由でも、二日はかかります。
登山者を送り出した後に静まり返っています。
百間平の台地を抜ける
沢沿いに登るとテント場。
聖岳方面の展望をものにできるので、実に魅力的です。
かといって、さすがに朝のこの時間にテントを張るわけにはゆかず、急斜面のジグザグをこなしていくと、不意に視界が開けて大きな平地が広がり、オッと声が出ます。
地図で百間平と確認。
標高2800mほど。
南アでは珍しく、平らで大きな平原です。
9時過ぎの若い光が、平原の上を跳ね回っているかのように若々しい。
大きいとはいっても、これまでしばしば比較で引用した五色ヶ原などとは比較にならない小ささです。
全体が白っぽい。
(百間平は南アには珍しい山中の台地)
ハイマツが点在していて、ダケカンバらしい低木がポツンとあるけれど、高山植物の華やかさに乏しい。
南アは高山植物が豊かということですが、この広がりとモノトーンの間には何か自然の采配があるのでしょう。
ここからは赤石岳が俄然覆うように迫って感じられます。
そっけない台地ですが、神々の踊り場にふさわしい簡潔さとも思えます。
テントを張るなら、ここら辺りかな?
などと空想のテント泊を想像しながら、分厚く聳える赤石岳への登りにかかります。
-
-
【第10章】聖岳から赤石岳⑤~聖岳から百間平へ写真で~
山行データ1999年7月31日―8月3日、46歳。単独。静岡駅からバス便。 畑薙ダム(終点)から歩く。茶臼岳から上河内岳を経て聖岳(3,013m)、兎岳から百間平、赤石岳(3,120m)を踏んで椹島へ ...
続きを見る