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登山記録 白山

【白山2019年夏】夫婦のテント旅㊦

 

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クロユリの大群
【白山2019年夏】夫婦のテント旅㊥

    山行データ66歳。2019年8月1~3日。 砂防新道経由、南竜ヶ馬場でテント2泊。山頂巡りなど。 3日に下山後は滑川で友人夫妻と会食。 翌日は剣岳登山口の富山県馬場島山荘で ...

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山行データ

66歳。2019年8月1~3日。
砂防新道経由、南竜ヶ馬場でテント2泊。山頂巡りなど。
3日に下山後は滑川で友人夫妻と会食。
翌日は剣岳登山口の富山県馬場島山荘で宿泊後名古屋に戻る。

 

 

足をくじいて背負われる中高年男性

一日目の甚之助小屋で休憩してすぐのことです。

谷から吹き上げてくる風がときどき汗ばんだ体を癒してくれます。

 

岩や石のやや急な上りにさしかかると、真上から男性の声がします。

 

「すみません、通してください」

 

見上げると、消防らしき制服の若い男性が先導し、その真後ろに男性を背負った若い隊員が足を踏ん張ってついています。

そのうしろにはさらに3~4人が控えています。

 

「けがですか?」

「足首を・・・」

 

ねんざのようです。

背負われているのは私よりも年のいったと見える男性。

左足首には白い包帯が分厚く巻いてあります。

けが人
(けがをした左足首を固定し背負われて下る登山者(左足))

 

どこでけがをしたのかわかりませんが、ヘリコプターが着陸できず、吊り上げも困難な樹林帯がけがの現場なのかと想像します。

 

この場合、人力で背負い下山するのが最善なのでしょう。

男性の体重を60キロと仮定します。

 

60キロの登山荷物を私は背負ったことがありません。

せいぜい30キロです。

それでも肩が沈むような重さです。

 

足元の不安定な登山道を下るのです。

救助隊員が転倒したり、足首をねじったりしないともかぎりません。

 

男性のけがは気の毒ですが、やはり、けがをしないことが一番です。

 

さっき、砂防新道の方で救急車のサイレンが聞こえていました。

この登山者を搬送するのかもしれません。

 

中高年が登山者の多くを占めるのはこの一、二年のことではありません。

 

南竜ヶ馬場のテント場でも中高年が半数を軽く超えそうです。

 

単独女性が山頂下り道で転倒

二日めにクロユリやコバイケイソウの群落を堪能し、かつての噴火口や巨岩が散らばる地帯、残雪の池を巡って山頂へジグザグの岩と砂の急坂を登っていると、単独の女性が下ってきます。

 

私たちが道を譲ったのですが、足早です。

何歩か歩くと後方での異常に妻が気付きました。

 

「転んだのよ」

「えっ?」

「今、すれ違った人みたい」

 

振り返ると数メートル下で、登山道から外れて若い男性二人がしゃがんでいます。

 

「暗黒物質」とTシャツの背中にデザインした二人です。

その二人もすれ違ったばかり。

山頂付近
(正面が白山山頂。その中腹辺りで女性が転倒した。事故10分前。)

 

女性は今しがたの方です。

仰向けになった顔の右小鼻、唇あたりが赤く染まっています。

70歳代くらいでしょう。

 

女性の唇は小刻みに震え、内心は興奮混乱していて、転倒した状況をはっきりたどれないようですが、顔面から倒れ込んだのは確かなようです。

 

骨折、多量出血、意識不明があれば救助ヘリコプターを呼ばなくてはいけない。

 

男性一人が女性を背から支え、頭部が心臓より高い位置になるようにしています。

手持ちのティッシュで顔面の血をぬぐいます。

 

わたしは痛みの個所などを聞きます

:右足首辺りが痛い。

動かせますか:何とか。

痛みは:少し、でも大丈夫ですから。

 

室堂までけがの女性と同行

他の男性登山者も通りかかり、わたしたちは女性が安全に下山できるよう相談です。

 

まず一人が室堂へ先行し事故を連絡(金沢大学の夏山診療所がある)、女性にはわたしたち夫婦が同行することにしました。

 

女性には痛み止めの薬が、「暗黒物質」の一人から渡されました。

 

ゆっくり、ゆっくり。

骨折を疑う足の痛み、出血再発がないように。

 

山頂で立ったまま小休止を入れ、水とアイスコーヒーを私のコップに入れて差し上げます。

 

女性のリュック外に装備したペットボトルには、残り数センチのお茶しかないのをけがの現場で確認していましたので。

 

地元の方で毎夏の白山登山らしい。

速足は身についたものよう。

 

山頂経由で室堂へ下りますが、先行しゆっくりと歩を進めるわたしのそばを追い抜く気配が幾度とあるのです。

私は立ち止まっては、女性の速度を調整するのでした。

室堂
(室堂は宿泊のほか診療施設などがある。)

 

「打撲だけでした。お世話になりました」

室堂で診断を受けた女性が、小屋の中で休憩していた私たちに挨拶し、下山していきました。

 

山荘の少し手前で、こびりついていた口回りの血のりをぬぐってあげていたので、擦り傷部分がくっきりと赤みを帯びています。

 

まだお昼。

自宅には明るいうちに帰り着くことでしょう。

私たちは、私たちの時間に戻ります。

 

「昨日の背負われた人といい、今の婦人といい、数字に出ないだけで、こういう事故は随分とあるんだろうな」

 

「ゆっくりするつもりだった山頂は、通過だけになってしまったわね」

 

「奥宮に手だけは合わせてきたから、白山の神様のご利益で無事に下山させてもらえると思っておこうや」

 

「素敵なお花畑も見られたしね」

 

ウナギの稚魚?が白山の池塘に

二日目の夜中にテントをたたく雨音で目が覚めました。

登山道がぬかるんだり、石が滑りやすくなったりして転倒する恐れがあるので、予定を変更して砂防新道を戻ることにしました。

 

日曜日の好天なのでものすごい数の登山者と行き交います。

 

山頂郵便局から郵便物を四角い石油缶(?)に背負った若い男性に抜かれました。

その中には、妻が海外の友人宛に投函したはがきもあるはずです。

 

私たちの目前で郵便局男性は立ち止まり、小さな池塘そばに立つ男性から何か聞き入っています。

 

黒褐色のうす汚い水をためた畳一枚ほどの池塘。

浅い水面に浮かぶオタマジャクシらしき生き物を見ているのでした。

 

男性は専門家らしく、水辺を指さしつつ、

「黒サンショウウオといって、ほら、一時人気だったウーパルーパという生き物の仲間なんですよ」

黒サンショウウオ
(黒褐色の池塘には何か生き物がうごめく)

 

私もつられてのぞくと、大きさは10センチ未満でしょうが、頭が体の三分の一ほどに大きく、のど下に魚のえらのようなものが見て取れます。

 

「なんです?何かいるんですか?」

 

通りかかる登山者の列から、中年女性が聞いてきます。

 

「ほら、見えますよね、あれ。黒いふらふらしてる小さいあれ。実は里に持ち帰って育てるとウナギになるんですよ。知ってました?」

 

私が振り反って思い付きの冗談を言うと、へぇそうなんですか、と目が丸くなり真に受け関心のふうです。

 

「違います、違いますから!」

 

説明の男性が慌てて訂正し、説明します。

自然観察員の腕章を巻いたボランティアなのです。

 

女性の仲間、わたしたちも大笑いしながら、妻が山頂で投函したはがき入りの石油缶が揺れるのを目に追いながら、別当出合までのんびりと下っていきます。

 

(終わり)

 

 

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ゴン

1952年生まれ。 18歳で高校を卒業後、他県生活を30年余。 北海道、北陸、東京など、転勤に伴い転々とする。 退職後は2013年から自宅で小さな英語塾を開設。夫婦で小中高生や社会人と接する一方、夏秋になると北アルプス、南アルプスの山歩きをしている。 中学、大学でプレーした卓球を退職数年前に約35年ぶりに再開。地元高校のコーチは9年目(2024年4月現在)

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