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【登山余話8】新型コロナ猛威の夏、蝶ヶ岳から霧ヶ峰へ③
山行データ2020年8月10~11日。67歳。妻と。名古屋(クルマ)沢渡(シャトルバス)上高地(歩き)徳沢ロッジ二泊。下山後松本一泊、13、14日と美ヶ原~霧ヶ峰散策、霧ヶ峰二泊。 &n ...
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山行データ
音楽祭のない岳都・松本の8月
下山にせよ、入山にせよ、汽車で松本駅に立つと、市中の人たちに囲まれた自分が、異形の登山者なのだと意識します。
今さらですが、この駅は上高地から槍穂高へ向かうのにも、さらに大糸線を北上し、表銀座、裏銀座、白馬連山を歩くのにも要衝です。
中央線(東京、名古屋)、篠ノ井線、大糸線が安曇野の一駅でつながるのですから。
コロナウイルス席巻の今夏も含め、わたしの山旅で一番たくさんお世話になってきた駅です。
(松本市内からは美ヶ原が高い)
松本市の夏は本来、長期の音楽祭で賑わうのですが、今年は夕食にでかけた駅前の繁華街ですら人出はまばらです。
10年ほど前の8月中旬と何という違いでしょう。
音楽祭の最盛期に下山し、予約なしに行く先々の宿泊施設はことごとく満室。
楽器を手にする学生らがホテルをしきりに出入りしているのでした。
登山者といえば、わたしの学生時代のころ駅舎周辺でごろ寝をしていたんだしと割り切り、駅ビルの外の舗道の端を借り、リュックを枕にごろ寝を決めます。
夜半に目が覚めると、そばに見知らぬ男性(登山者ではない)がごろ寝をしていて共感し、もう一度目が覚めたときにはいなくなっていました。
高校二年のあの夏、美ヶ原
さて、ホテル宿泊の翌日、霧ヶ峰に向かう前に美ヶ原に寄ることにしました。
美ヶ原には縁があって、高校2年の夏の友人たちとの高原旅行以来、何回か訪れています。
最近では、十数年前の春先の日に、初めて南の茶臼山を経由して王ヶ鼻(ここから安曇野と北アルプスを展望)、三城牧場へ下った一日の行楽が印象深い。
うららかな青空の下で、高原にはひんやりとした微風が渡り、冬枯れの草が茶色くうなだれて広がっていたのです。
華やかさとはかけ離れた淡泊な景色にひかれました。
一人旅なら茶臼山ですが、今日は高原の東の端にあたる山本小屋そばにクルマを止めます。
広い駐車場があり、休憩、飲食の施設も立派です。
人出も多い。
高原の夏の観光地そのものです。
高原を貫く広い遊歩道の両側には牧場が巡らされ、遠く近くに牛が放たれています。
(高原を貫く遊歩道、両側は牧場)
わたしが学生だった1970年代始めまで戻れば、美ヶ原と霧ヶ峰をつなぐ高原観光道路・ビーナスラインは、環境破壊を危惧した大きな反対運動をおして建設されました。
地元出身の新田次郎は小説『霧の子孫たち』(『山の本棚3』参照)で反対運動を側面支援しています。
タイトルの霧は、霧ヶ峰に由来します。
ビーナスラインをもじって、ビーナシライン(美無しライン)とも皮肉られました。
ハクサンフウロに囲まれる美しの塔
わたしたち観光客は、美ヶ原の中央を貫く幅広の遊歩道を散歩します。
アスファルト張りになっていないのは、もろい高原の自然へのせめてもの配慮なのでしょう。
遊歩道の両側に牧柵が設けられていて、遠く近くに牛が散見できます。
上高地奥地の徳沢牧場はなくなりましたが、美ヶ原には連綿として営まれているのでしょう。
時間の流れで追えば、先客の牧畜業に割り込んで、観光が木柵に仕切られた外側にあるわけです。
今、わたしたちが左手に見る山本小屋は、牧野としての美ヶ原を意識させてくれます。
「どこまで歩く?まっすぐ向こうの先に見えるテレビ塔まで行く?そこに見える美しの塔までにする?」
「塔まででいいわ。以前、あっちから歩いたこともあるし」
(ハクサンフウロに囲まれた美しの塔)
何年か前の秋口に、反対側から塔まで散歩したことがあるからです。
8月のこの時季の美ヶ原は初めて。
薄紫が印象的な高山植物のハクサンフウロが満開なのに驚きます。
白山テント登山で妻に教えた高山植物の一つです。
わたしの山旅でも、群落をわりと見てきたのですが、今日のハクサンフウロは、美ヶ原のこの時季はこれしかない、とでもいうように席巻しています。
美しの塔は、その薄紫色に取り囲まれているのでした。
シカはどこに潜む?
松本駅前から一本道が東に伸びて、突き当たったところが旧制松本高校の跡地。
北杜夫の『どくとるマンボウ青春記』(『山の本棚5』参照)の舞台になった敷地には北の青春時代からそびえるヒマラヤスギの巨木がいくらか残り、どっしりと風格をたたえて立っています。
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参考【山の本棚5】北杜夫と槍・穂高、そして安曇野①
戦争をはさみ、珍妙・内省の青春 上高地は岳人を集め、旅人には避暑の憩いをもたらす高地です。 上高地を足早に駆け下る梓川の冷涼な流れの奥には岩の穂高連山の大屏風 ...
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その上空に美ヶ原の最高点が台形にそびえています。
わたしたちは、その高さにある高原を歩いていることになります。
駐車場近くまで戻ると、遊歩道わきに軽トラックがとまり中年の男性が何か段取りでもしていて、そばに看板がたっています。
「有害鳥獣捕獲実施中 美ヶ原牧場」
有害鳥獣と美ヶ原――あまりに落差のある言葉です。
男性に聞くと、シカが有害。
無論、野性のシカ。
「夜になると出てきて、牧草をたべてしまう」
男性の答えです。
(シカの出没は畜産の悩みになっている)
高山帯にもシカは進出し、高山植物を食べてしまうので、南アルプスなどでは環境問題として悩みのタネになっています。
美ヶ原では牛のエサ泥棒だというのです。
年間100頭くらい駆除するという話ですが、この昼間、シカはどこに潜んでいるのか。
酪農家の切実さが思われます。
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【登山余話10】新型コロナ猛威の夏、蝶ヶ岳から霧ヶ峰へ⑤
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