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【登山余話28】南アルプス白根南嶺~㊤広河内岳再訪
山行データ2025年8月29日~31日。大門沢沿いに白根南嶺の尾根に突き上げ南下、広河内岳(2895m)から尾根道歩き。笹山(黒河内岳・2728m)を経て奈良田に下山。72歳。単独、テント。 &nbs ...
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山行データ
長いトレイル
この先のソロは長く、静けさと、少しの心細さと緊張がある。
それは、この尾根歩きを計画したときから十分に予想でき、あるいは期待し、望んでいたことでもある。


(南下する尾根道)
広河内岳から南に足を踏み入れる人は少なく、隠れ家のような地帯に違いない。
不安はやはり体力だ。
大門沢小屋からの急登によって体力の消耗が激しく、予定している笹山に到達できるといいのだが。
無理なら、行けるところまで行き、テントを張ろう。
広河内岳からいきなり下る。
岩と岩の間にざらざらとした砂地が混じってひどく不安だ。
尺取り虫の足取りで、最低鞍部まで30分くらいかける。
独り歩きの南ア山中で転倒し、骨折・捻挫でもして救助要請など招くようでは、情けないではないか。
広河内岳はでかい
振り仰ぐと広河内岳が驚くほどにでかい。
大門沢への下降点から横並びに見たのとは見違えるばかりの高度感だ。
逆コースからきてこの急登を仰ぐと、めげそうだ。


(広河内岳方面を振り返る)
尾根の先には、いくつもいくつも小さな起伏が繰り返している。
二重山稜のような岩帯を左手に見る。
とっさに、北アルプス蝶ケ岳の山頂地帯の岩尾根の印象が重なる。
まず目標は大籠岳(2767m)。
長く緩く登る坂道に、次第に足取りは重くなり、見上げる先の頂点が山頂であってほしい。
いや、着いてみると違う。
山頂を示す標柱がない。
地図を広げて現在地を定めて、あとちょっとだ、さぁゆこうと自らを励ます。
交差したり追い抜いたりする登山者がいれば、
(いやぁ、きついですねぇ)
(お互い、踏ん張りましょうね)
などと愚痴と励ましを交わして、いくらか解毒できるのだが、一人きりの尾根である。
水に砂糖と塩を加えて、即興の熱中症対策の補給をする。
残りの水の量を計算しながら。
だれにも頼れないのだと、強く意識する。
広漠とした岩敷の尾根
一抹の不安があったものの、進路を塞ぐブッシュ帯はなく、岩と砂、たまのハイマツや灌木くらいなので、見通しは極めてよい。
道はまずまず明確。
薄くても、ペンキの印もある。
だだっ広いだけに視界の悪いときは不安を感じるだろう。
好天に感謝する。
テントを張ったと思われるところが何か所か見かける。


(テントに絶好地)
水を携えてのテント泊だったに違いない。
水の憂えさえ克服できれば、鼻唄さえ出てきそうな小気味よい尾根の旅である。
へばりながら到達した大籠岳だが、明日は笹山からの5~6時間はかかる大下りが待っている。
もうひと踏ん張りして白河内岳(2813m)にたどり着き、ひしゃげた両肩を解放してやる。
小岩が散らばる広々とした山頂部が、まさにテントにもってこいなのだ。
雨の心配こそないが、遮る樹木や大岩のないむき出しの尾根だけに、強風を用心してテントを岩で補強する。
北ア赤牛岳山頂付近でテントを張った緊張の記憶がそうさせる。
黒部の最深部、初秋の夜半に強風雨が唸り、テントが支柱ごとずれる風圧に襲われて緊張したものだ。
テント内の四隅に抱えるほどの岩を置いたのが正解で、それ以上の難儀にはならなかった。
蝶ヶ岳の尾根からの槍穂高展望に匹敵
強風は杞憂・・・翌朝はうららかな快晴。
今日も命に関わる猛暑に警戒せよと、ラジオは下界の灼熱を繰り返すが、テントの外に出れば、涼風が五臓六腑まで駆け巡って清々しい。


(朝のシルエットの富士山)


(広河内岳は遠くになった)
優しくゆりかごに包まれているかのようだ。
笹山方面から、若い単独男性がやってきた。
テントをたたむわたしと談笑である。
笹山でテント泊。
今日は広河内岳から大門沢、奈良田へ下るという。
東に富士山が浮かび、反対側の間近にはオレンジ色の朝の光が残る塩見岳などを見回し、
――昨日もこんな天気だったのですか。
――すげぇ。
小鳥が小踊りするようにして去っていく。
足取りの軽やかさがいかにも若々しい。
大井川源流越しに対峙するスカイラインの絵巻は、記憶にあるいくつかと共鳴する。


(赤石岳方面が広がる)
北ア燕岳(表銀座)からの槍ヶ岳から裏銀座、蝶ケ岳から梓川を挟んだ槍穂高、赤牛岳から黒部渓谷を間にした薬師岳・黒部五郎岳方面などだ。
個性に満ちた珠玉のそれらと並べてみても、眼前のうねりに遜色がない。
そればかりか、山小屋が整い登山者がひきもきらない燕岳一帯や蝶ケ岳とまるで反対のこの尾根では、自分一人の裁量が存分に発揮できる。
単独のテント縦走の醍醐味と魅力が濃密にきらめいている。
時短登山では、この楽しさはなかろう。


(笹山からさらに南下できる)


(笹山から急降下する)
次はどこに穴場を見つけようか。
笹山から、痛みきしむ足腰や肩をいたわりつつ、もう一歩だって歩くのは勘弁してくれと辟易しながら下りきってなお、そんな思いがちらつくのはどういう加減なのだろう。
(この項終わり)





