北アルプス 登山

第6章 唐松岳から白馬岳、日本海へ②~ビールを浴びて夕暮れる~

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白馬三山
第6章 唐松岳から白馬岳、日本海へ①~五輪連想~

山行データ2002年8月8日ー12日。49歳。単独。3千m峰はないが、日本海~3千m峰全山~太平洋という旅に欠かすことはできない。栂海新道を北上する   もくじ1 新宿発、30年ぶりの唐松岳 ...

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山行データ

2002年8月8日ー12日。49歳。単独。3千m峰はないが、日本海~3千m峰全山~太平洋という旅に欠かすことはできない。

 

八方尾根のスキーと夏

八方尾根を最初に訪れたのは、高校2年のスキー旅行に遡ります。

友人たち5、6人と名古屋から汽車でやってきました。

八方尾根にスキー場がたくさん開けているのは、今も当時も変わりません。

その夏休みには、似た顔ぶれで松本から美ヶ原~蓼科へリュックを背負って旅をしています。

風雨の美ヶ原の横断、バンガローでの自炊、蓼科山登山などを経験し、わたしたちは山岳と高原がうねる信州の大自然にすっかり参ってしまいました。

八方山
(八方尾根は唐松岳へと通じる)

 

信州ファンになるきっかけは、高校2年5月の修学旅行。

名古屋駅から中央線に乗り塩尻駅で下車、バスに乗り換え蓼科軽井沢志賀高原などを周遊したのです。

名古屋近辺を見慣れているわたしたちに、信州の風物はどれもこれも新鮮。長野駅から帰る日、志賀高原から移動中のバスの中から見やる善光寺平に小さな白いリンゴの花が群れ咲くのにすら感傷の気をそそられたものです。

クラス仲間との交情を深めてくれた旅先が信州だったことは、シアワセでした。

時間は現在へ飛びますが、新型コロナウイルスの感染予防のため全国の学校が長期に渡って休みになり、この6月からようやく再開し始めています。

学習の遅れを取り戻すことばかりに目を奪われ、修学旅行が中止にならないでもらいたいです。

 

 

雷鳥の散歩、ぐうたらな午後

さて高校2年のスキー。

まったく初心者。柔道の受け身のように、転んでばかりのすえに仲間の甘言に乗せられた吹雪の夕暮れに一番高いところまでリフトで登ってしまい、急斜面を背中で下ったのでした。

全身は雪まみれ、手袋は寒さで凍り付くばかり。吹雪だというのは汗がたっぷりと肌を濡らすのでした。

30年以上が経過した今、真夏の八方尾根。ところどころの残雪が冬の大雪をしのばせるばかりです。

八方池周辺が荒れていて、看板を見れば自然再生事業のさなかとのこと。

八方池
(八方池。周辺は荒れ自然回復事業の進行中)

 

池の向こうには白馬の連山が谷間から湧き上がるガスのカーテンに見え隠れしま
す。

唐松岳(2,696m)のテント場には正午に着きました。

テント場に近い雪渓は垂れた貝の舌のように細長い。それが水場。

テントを張り終え水汲みに短い草の間を下って行くと、「迂回して」という声が正面近くから飛んできます。

「ライチョウがいるから」

立ち止まり目を凝らせば、すぐそこ、丈の短い高山植物の隙間にライチョウが。

一、二、三・・・親鳥、子供合わせて7羽の大家族。

ぐるぐるという声は親が子供を誘導しているのでしょう。

ちょこちょこと小走りに去ってハイマツの叢に潜っていきます。文句なしに愛らし
い。

 

 

至福とは、残雪で冷やすビール

山旅の始めに嬉しいライチョウの出迎えを残像に、雪解け水でガツンと冷やした缶ビールで喉を震わせます。

唇からこぼれるビールが喉から胸に下り、これまた爽快な冷ややかさ。

やっぱり、これですよ。

快晴、高々と燃える太陽。至福。

大学2年の夏にここでテントを張った時には、発想もなかったビールの憩いです。

テントの真正面には黒部渓谷を挟んで剣岳(2,999m)。

ここから左手の太い尾根の頂には五竜岳(2,814m)が迫ります。

眼下は黒部渓谷・祖母谷へと切れ落ちて行く斜面に縦走路が切れています。

19歳の夏、膝をわなわなさせて下りに下った長い道・・・考えるだけでうんざり
です。

空を流れる雲、足下の谷からひっきりなしにわき上がるガス。

風の道が複雑にもつれ、からみ、反発し合うのがわかります。

ひたすらに、ぼんやり。白日夢にあやされているかのようです。

頭上では太陽が威光の限りを発揮して白熱しています。

花と蝶
(高山植物に蝶が休む)

 

 

親と少年の人生の一日

ビールの効果はてきめん。夜行列車に始まる初日に疲れ、シャツを首まで引き上げ、テントの出入り口から半身をさらして日光浴がてら昼寝・・・目覚めると夕刻です。

熱を感じる腹をみれば、おかしなツートンカラーに日焼けしています。

ミートソースにマカロニを加えて煮込む。焼酎もコップに注ぐ。

満腹になると、もう黄昏。

テントはまばら。5張りもない。

左下に近いテントは、小学5年生くらいの男の子の親子です。

親子は明かりをともしてテントの外にそろって座り、宵闇の空を見上げ降る星を待ち受けます。

切れ切れに、星を巡るかれらの会話が、おとぎ話の読み聞かせのように、私のテントに届きます。

小鳥のように澄んだ少年の声が、夕暮れによく透き通ります。

この一夜は、親子にとってどんな人生の一日として記憶されるのだろう。

絵本のような二人はまぶしすぎ、昼に次ぐ夜も酔いに漂うすれからしの中年はテントの中に引きこもります。

夜半に目覚めて天を仰ぐと、数の概念をなくすほどの星々の累積です。

親子のテントも星明りの夜の底にひっそりとやすんでいます。

剣岳の黒々とした三角のシルエットを横目に、明日の好天を期待します。

 

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雷鳥
第6章 唐松岳から白馬岳、日本海へ③~信州大山岳部員と再会~

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ゴン

1952年生まれ。 18歳で高校を卒業後、他県生活を30年余。 北海道、北陸、東京など、転勤に伴い転々とする。 退職後は2013年から自宅で小さな英語塾を開設。夫婦で小中高生や社会人と接する一方、夏秋になると北アルプス、南アルプスの山歩きをしている。 中学、大学でプレーした卓球を退職数年前に約35年ぶりに再開。地元高校のコーチは5年目(2020年4月現在)

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