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第9章 蝙蝠岳から塩見岳、悪沢岳、赤石岳縦走④~塩見岳を越える~
山行データ1999年7月16日-21日、46歳。単独。 浜松から車で大井川を北上し畑薙第一ダムが入山口。さらに上流の二軒小屋から蝙蝠尾根に取り付く。 蝙蝠岳(2,865m)からバカ尾根に出て、3,00 ...
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山行データ
浜松から車で大井川を北上し畑薙第一ダムが入山口。さらに上流の二軒小屋から蝙蝠尾根に取り付く。
蝙蝠岳(2,865m)からバカ尾根に出て、3,000m峰の塩見岳(3,052)、悪沢岳(3,141)、赤石岳(3,120)を踏んで椹島へ下山。
■塩見小屋のテント場
コロナの影響で2021年の夏山は、南アルプスでも閉じる山小屋がありましたが、1999年には夢想だにできません。
ただ、山岳を巡る環境問題は古くて新しい課題で、その一つが山小屋利用者による排泄物のこと、トイレ問題です。
塩見岳を下ってすぐの尾根に立つ塩見小屋に立ち寄ったときも、それを目の当たりにしました。
(尾根から少しずれて塩見小屋が見える)
いかにも風雪になじんできたと見える小さな塩見小屋です。
小屋のご主人の話では、ことし初めて(?)使いきりの簡易トイレの使用を始め、水は一人2リットルが提供されます。
排泄物をためるトイレではなく、一回ごとの使い切りです。
宿泊者には1枚を無料配布。
トイレだけ利用(わたしのような通りすがり)は200円で頒布。
(トイレと水源保全を立て札が問う)
たまった簡易トイレは、シーズン後、ヘリコプターで地上に降ろし焼却。
相当な決心です。手間も費用もかかります。
登山者の協力、理解も手探りといいます。
排泄物処理とライチョウ
小屋のすぐ下にある、古いガイドではテント場となっている場所には、「テント禁止」の小さな立て札が目につきます。
「下に山小屋の水源があるので、ここでテントを張ると、(排泄物などが原因になって)水質汚染の心配がある」
とのことでした。
三伏峠のテント場を予定しているのですが、高所のテント場なりの自然を味う機会がなくなるのは、テント派としては寂しく、残念です。
環境あっての山歩きなので、「テント禁止」にこぶしを握るものではありません。
今年で3年目ということです。
ところで、さっき蝙蝠岳からバカ尾根に出た辺りでライチョウを2羽見かけ、塩見岳山頂付近からもライチョウらしい鳴き声を耳にしています。
(ライチョウが生きる塩見岳周辺)
ライチョウが点描されるといかにも3,000m峰高山の気風が引き締まります。
わたしたちの排泄物とライチョウの自然が交錯することは、山歩きの心得としておきます。
塩見小屋に寄ったのが、2時30分ごろ。
小屋の外でビールを飲んでいた中高年男女4人は、(蝙蝠岳を雑誌で見たので行こうか)というのでした。
三伏峠への道すがら何人かと行き交います。
若い女性3人連れ、母娘ふうの2人、若いカップルなど。
樹林の中にわずかな水たまりがあったので、すくって4杯飲んで力をもらいます。
雨の後にだけ現れる水場なのでしょう。
思いがけない恵みものが嬉しい。
水が走る三伏峠のテント場
すっかり山道が平坦になり、森の中の二股を左にとれば三伏峠のキャンプ場です。
キャンプ場は主稜線から下ったところにあります。
ここのキャンプ場へは、昨日歩き始めた二軒小屋から沢を詰めてくれば到達できるはずです。
(塩見岳を遠望する樹林で炊事するカップル)
二軒小屋から伝付峠を越えて奈良田(山梨県)、そこから甲府盆地へとつながります。
こうしたことが、「武田信玄の間道」と伝わるゆえんなのでしょう。
のちに二軒小屋から伝付峠を越え、富士山~太平洋・田子の浦へ歩くことになります(このブログのテーマです)。
三伏峠のテント場は沢筋にあり、すこぶるご機嫌です。
理由は主に二つ。
水が豊富。
静か。
沢水がそばの斜面を滑り降りるように流れます。
尾根から下っていますので、たいていの風雨は両側の尾根や木々が緩和してくれます。
その安らかさに、先客が夕暮れていくテント場に憩っています。
心漂うテント場の夕暮れ
若い人たちで、大阪から。
テント泊は、三伏峠、熊ノ平、北岳。
北岳で富士山方面にあがるご来光を浴びてから広河原へ下山という3泊4日。
鉄道とバス便ののち歩いて、ここに着いたのは午後1時過ぎ。
昼寝を楽しんだり、テント場の回りの樹林をぼんやりと眺めたりして過ごして夕暮れ時が近い。
北アルプスを歩いてきたが、今回は気分を変えて南アルプスに来たそう。
山小屋の料金は高いし混むし・・・とテント旅。
別の女性3人も大阪の人。
25歳がリーダー。
昨年は畑薙ダムから入山し、聖岳から三伏峠まで歩いたので、今年はその続きを歩くそう。
一緒に来た初心者という方は、「いろいろな人が、南アルプスに行かないと、山の良さは分からないと言うんです」と。
テントの外で背中をのばして寝転がり、森とも空ともつなかい空間を仰いでいる若者たちは、目には見えない自在な大気の中に雑念を浮遊させて晒してでもいるかのようです。
(静かな夕暮れに瞑想のひととき)
よく似た経験を思い出します。
25年前の学生時代に発の北ア縦走で、黒部渓谷の阿曽原でテント泊したとき、何をするでもなくのんびりと過ごした暑い一日のうつろいです。
心がそこここにぷかぷかと、何にも妨げられずに漂うような開放感に浸された感覚です。
テントの山旅ならではの心身の脱力、のんびりです。
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第9章 蝙蝠岳から塩見岳、悪沢岳、赤石岳縦走⑥~野性の足音~
山行データ1999年7月16日-21日、46歳。単独。 浜松から車で大井川を北上し畑薙第一ダムが入山口。さらに上流の二軒小屋から蝙蝠尾根に取り付く。 蝙蝠岳(2,865m)からバカ尾根に出て、3,00 ...
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