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【第7章】南アルプス越え⑤~深夜の鈴の音に凍る~
山行データ2005年7月26日~30日、53歳。 単独。伊那市・高遠から入山。戸台の山荘泊の後、戸台川から仙丈ヶ岳、通称バカ尾根から野呂川・両俣に下り、北岳へ登り返し広河原 ...
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山行データ
単独。伊那市・高遠から入山。戸台の山荘泊の後、戸台川から仙丈ヶ岳、通称バカ尾根から野呂川・両俣に下り、北岳へ登り返し広河原へ下山。
3,000m峰は仙丈ヶ岳(3,033)と北岳(3,193)
馬鹿尾根とは愛称、蔑称?
千塩尾根は、ずっと森林に包まれています。
名から知られるように、千丈ヶ岳と塩見岳を南北につなぐ尾根です。
地図上の直線で約16キロ。
ちなみに北アルプス穂高連峰・大キレットは、1キロです。
長大な尾根の俗称が「馬鹿尾根」。
手元の『アルパインガイド南アルプス』(山と渓谷社・1973年版)は、山岳写真家・白籏史朗さんによるものです。
白籏さんの説明はこうです。
「この千塩尾根は、一名馬鹿尾根と呼ばれているが、馬鹿尾根の区間は三峰岳までである。」
(馬鹿尾根の鞍部・野呂川越)
三峰岳(みぶだけ)は仙丈ヶ岳と塩見岳の中間辺りに大井川最源流の峰。
岩が寄り添った小さな突起にすぎず、地味なまでに地味です。
一方で、最近の南アルプス市芦安山岳館のHPは、馬鹿尾根の範囲について、仙丈ヶ岳~塩見岳の尾根をさすとして、「ばかばかしいほど長い登り(下り)が続くことから名前が付いた。」と由来に触れます。
両俣に下り野呂川を遡行
馬鹿尾根の区域について見解は分かれるにしても、とにかく長い。
わたしが向かう野呂川越(尾根の鞍部・峠)から両俣小屋への縦走路も、伊那荒倉岳(2,519m)、横川岳(2,478m)を経るのですが、樹林帯をくぐり歩くばかりです。
標高2,500メートルとなると、北アルプスだと立山・室堂あたりです。
ごつごつとした大小の岩や裸地にわずかに灌木や高山植物がしがみつくばかり。
ストイックかつ壮大な山容に登山者は惹かれるのですが、馬鹿尾根は豊かな森林なのです。
大森林こそが、南アルプスの特質です。
馬鹿尾根を行けば、里山や人工の公園とは別世界の大森林の気を全身に浴びることになります。
ほとんど独り占めも、いいです。
野呂川越というのは峠のことです。
この鞍部を越えた人々の生活があった証が、地名です。
釣り人か、杣人か、猟師か。
急坂を少し下ると樹間にテント向きの平地があり、2張りくらいは大丈夫そうです。
膝が痛くなるほどジグザグの急斜面を下ると、野呂川の源流部に出ます。
両俣小屋が建っています。
(両俣小屋から野呂川源流部へ)
この近くまで野呂川沿いに林道が侵入していますが、訪れる登山者も限られることでしょう。
静かな気配です。
野呂川に下り、荒れた山林から北岳へ
人気の北岳へ登れるのですが、たいがいは交通の便がいい反対側の広河原から北岳を目指すからです。
まだ朝の8時20分。
小康の天気。
小屋の外のベンチで一休みしていると、小屋から出てきた婦人が、わたしの予定を聞きます。
「二日前の天気(雨だった日)は、右俣には今日の3倍の水量があって、北岳に向かう登山者に、『危険だからやめた方がいい』と言ったらやめたの。北岳から水がどっと野呂川に落ちたの。戸台川を歩いてきた?そういう経験があるなら、大丈夫ね」
その助言にいささか緊張したのですが、歩いてみると水量も川幅も危険を感じません。
ところによっては膝下までの流れを横切りますが、よろける圧力はありません。
(樹林の間から間ノ岳が右手に)
2時間半ほどして岩魚止めになる滝に出合い、涼やかな沢歩きはここまで。
樹林の急登が待ち受けていました。
枯れ枝が乱雑に散らばります。
杉や檜でしょうか。
針葉樹の斜面は人工林の雰囲気ですが、人の手入れは見当たりません。
簡易な木のハシゴもうらぶれて、登山道も手入れした様子がうかがえません。
荒れ放題です。
両俣小屋付近まで延長した林道は、この斜面の森林の手入れには利用されていないのかな、と。
南アルプススーパー林道そのものが、林業振興より登山観光用みたいなものですから、かくあるのかも知れません。
急登、急登、急登。
北斜面。
振り返っても馬鹿尾根が左右に広がるばかりで、開放感あふれる山岳展望はありません。
お昼過ぎになって、右手の樹間に大きな頂が迫ります。
間ノ岳です。
北岳の南に構える3,000メートル峰です。
北岳は荒れた山林を抜けた先に
次第に木々の背丈が低くなり、ついに明るくハイマツを漕ぐまでになり、ここからほぼ垂直かという斜面(100メートルくらい?)を力任せに漕ぎ登ると尾根に出ました。
(壁面のようなハイマツ斜面を登り尾根に)
仙丈ヶ岳、甲斐駒ヶ岳だって一気に見渡せます。
たっぷり汗をかき、空からは陽光が降り注ぐので、上半身裸になり微風に火照った体をおさめます。
アイスコーヒー、チョコレート3粒で小休止。
ゆるやかな尾根をのぼり、小一時間後には岩ばかりの斜面に登山者がたくさん連なっています。
(おや、今から両俣小屋へ下る?ちょっと大変な時間になる)と思ったのですが、接近すると北岳肩ノ小屋が左手に見えます。
だれ一人として、わたしの歩いた登山道へ向かいません。
北岳山頂を踏む。
(北岳山頂まで少し)
ややガスめきますが、全方位の展望を目に焼き付けます。
小屋の前の広場のベンチには中高年が集まり、ビールを傍らに元気な会話を交わしています。
少し低い東斜面がテント場。すでにいくつもテントが並んでいます。
富士山を展望できるごきげんなサイトです。
翌朝は快晴。
(富士山が朝の光のシルエットに=左奥)
黄金色の朝の光を浴びながら富士山を展望し、広河原にひた下ります。
戸台に始まる山旅の静けさは、北岳からのち失せました。
(広河原でバスを利用する登山者)
(この章終わり)
*次回は北岳~間ノ岳~大井川源流~濃鳥岳です。
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【第8章】北岳から大井川源流、農鳥岳①~初めての南アルプスへ~
山行データ1997年7月19日~21日、45歳。単独。 山梨側の広河原から入山。北岳から間ノ岳、三峰岳、大井川源流、農鳥岳から奈良井へ下山。 北岳肩ノ小屋、農鳥山荘で宿泊。 ...
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